フルネームで呼ばれること
シナリオA
―ここは名誉ある賞の授賞式控室―
50㎡の会議室前方に20人程が待機している。
人々はお互いのことを知らない。
職員に呼ばれたら、その場で簡単に説明を聞き、授賞式会場に向かうことになっている。
前方のドアから職員が控室に入ってきた。
職員A「ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!」
職員Aは、まるでコーラスサークルで唄うような、高らかで伸びやかに大きく明るく会議室後方まで響き渡る声で名前を呼んだ。
―30秒後―
職員B「え~と、下のお名前何と読むかわからないのですが、〇〇賞にエントリーされている、さとうなんとかさ~ん!〇〇賞にエントリーされている、さとうさ~ん!」
職員Bは手元の書類を見ながら、顔を上げずに名前を呼んだ。
シナリオB
職員A「ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!」
職員Aは、まるでコーラスサークルで唄うような、高らかで伸びやかに大きく明るく会議室後方まで響き渡る声で名前を呼んだ。
―30秒後―
職員B「え~と、下のお名前何と読むかわからないのですが、年金受給の〇〇の〇〇を申請されている、さとうなんとかさ~ん!年金受給の〇〇の〇〇を申請されている、さとうさ~ん!」
職員Bは手元の書類を見ながら、顔を上げずに名前を呼んだ。
50㎡の会議室前方に20人程が待機している。
―ここはハローワークの失業認定処理を待つ控室―
これが令和3年のハローワーク・・・
首都圏のとあるハローワーク。
失業認定日の待機スペースの現状です。
大きな区役所や病院は、現在ほぼ番号札のシステムになってますよね?
驚くべきはコレ↓
このハローワーク、職業相談と初回失業申請の手続きの窓口は番号札のシステムなんですよ。
つまり、「失業中」で「失業手当をもらう為の認定を受ける人」の窓口のみが番号札のシステムではないのです。
フルネームで呼ばれるのです。
声高らかに、大きな声で。
気付くのが遅れたり控室に居ないと、フルネームを大声で間髪入れず連呼しながら別の場所を探しに行くのです。ハローワーク職員の方。
さてここで、シナリオBを振り返ります
職員A「ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!ごんのすけざかりゅうざぶろうさ~~ん!」
職員Aは、まるでコーラスサークルで唄うような、高らかで伸びやかに大きく明るく会議室後方まで響き渡る声で名前を呼んだ。
あなたのお名前が「ごんのすけざかりゅうざぶろう」さんだったらどんな気分でしょうか?
――――――――
職員B「え~と、下のお名前何と読むかわからないのですが、年金受給の〇〇の〇〇を申請されている、さとうなんとかさ~ん!年金受給の〇〇の〇〇を申請されている、さとうさ~ん!」
職員Bは手元の書類を見ながら、顔を上げずに名前を呼んだ。
手を挙げて控室中程から前方へ出てきた申請者。
職員Bの前に立ち
申請者「さとう△△です」
職員Bはその場で話し始める。
職員B「年金受給の〇〇の〇〇を申請されている、さとう△△さんですね。」
私、前から2列目に座っていたので、△△さんの呼び方が聞こえちゃったし顔も見えちゃいました。
控室のドアが前方にあるので、ほぼ全員前方を見ているかスマホや手元を見ているかしかないですからね。
わたしの番です
私、どちらかというと「ごんのすけざかりゅうざぶろう」のような名前なんです。ようするに少し珍しい名前です。「いじゅういん」とか「ごろうまる」といった少し珍しくても有名人に居る名前ではなく。
世の中に番号札システムが普及するまでは、病院とかでフルネームを呼ばれるのが嫌で嫌で。しかも、顔をマジマジと見てくる人も結構いるのですよ。もしかしたら、その人の知り合いと同姓同名だから確認したのかもしれないけれど。(同姓同名が居るなら私が会いたいよ)
だからフルネームを呼ばれるシステムの時は、即座に反応出来るよう、必要以上に連呼されないよう、いつも気を張っているのです。
職員C「水菜harihariさ~ん!水菜harihariさ~ん!」
職員Cは手元の書類を見ながら、顔を上げずに名前を呼んだ。
2列目中央に座っている目の前の私が、「水菜ha」の時点で「はい!」と声を出し手を挙げて前に出たにも関わらず、2度フルネームを声高らかに読み上げた。
2021年〇月×日9時半~10時、某県某市某管轄のハローワークで失業認定処理を待つ「水菜harinosuke」さんが居るのなら是非お会いしたい。
“失業者”のフルネームと顔の一致
“失業者”や“失業していること”は、決して恥ずべきことではなく、“失業手当を受け取ること”に引け目を感じる必要も一切無い。
ましてや、このコロナ禍。2019年まで黒字経営だったり安定していた大企業でさえガラリと変わってしまった状況。(私もコロナでアウトになった業界でした。ちなみに2019年賞与は100万超。)
誰のせいでもない。
人生何があるのかなんて本当にわからない。
“失業者”や“失業していること”は、決して恥ずべきことではなく、“失業手当を受け取ること”に引け目を感じる必要も一切無い。
しかし、自分が失業中であることを“顔+フルネーム”で全く無関係の人に認知され、晴れ晴れとした表情でいられる人がこの世の中にどの位いるのだろうか?気分が良い人がどの位いるだろうか?
マスクで顔の全てが見えなかったとしても・・・。
同姓同名が多い名前だったとしても・・・。
なぜ番号札システムに出来ないのか?
ここまで読んで「待機人数が20人も居るなら、大声でフルネームを呼んでも仕方ないんじゃない?」と思った方へ。
顔写真とフルネーム(カタカナ)がこんな感じで載っています。
職員はこの雇用保険受給資格者証を手に、名前を呼び顔写真を見て本人かどうか照合します。
私はこの度既に、ハローワークの認定日を数回経験しています。待機人数が5人程の時もありました。控室ではなく、窓口近くの壁際に皆な待機している時でした。
それでも、20人以上居るかのように大声で呼ぶのです。周辺を見渡すこともなく、顔を見て探す様子もなく、ただただ職員は書類に書かれた名前だけを見て叫ぶようにフルネームを呼ぶのです。
最初の認定日、あまりにそのデリカシーの無さ(あ!ハッキリ書いちゃった)に驚いてしまい、帰り際に総合受付の人に聞きました。
私「番号札に出来ないのですか?珍しい名前なので出来ればフルネームで呼ばれたくないのですが」
総合受付職員「決まりなので出来ません。同姓の方もいるのでフルネームで呼ぶ必要があります」
―――――――――
最初の方に書きましたが、このハローワーク、職業相談と初回失業申請の手続きの窓口は番号札のシステムなんですよ。(質問した時はそれを指摘することは思いつかなかったけど)
職業相談は、このタイプ(発券の番号札)↓
初回失業申請手続きは、このタイプ(親子札)↓
(片方を書類の入ったファイルに入れてBOXに投函)
失業認定も、持参した雇用保険受給資格者証をBOXに投函し諸々処理が完了したら呼ばれるのを待つ形式なので親子札タイプが必要。
隣の窓口(初回失業申請)では親子札タイプの番号札を使用しているのに、失業認定だけ番号札を使用しないのは何故?
・人数が多いから札が足りないとか?
→同時に100人分使うわけではあるまいし。足りなければ手作りパウチでも良いでしょう?番号札の消毒だって隙間時間に出来るでしょう。
・発券の機械や用紙の費用がかかるから?
→毎回最後に書くアンケートのようなA4の紙。数行しか書いてないし、記入後すぐ受付に提出したら一瞬で処理終わるし、長期間保管するわけでもないのだから、A5に切って配布すれば良いでしょう。そういうところから経費削減しなさいよ。
・それともアレかい?フルネームで呼ばれるのが嫌なことをわかっていて、「こんな思いをしないよう早く就職しなさいよ」ってことかい?
→随分ひねくれた見方をするね、ワタシ(笑)
もし私がハローワーク職員だったら
CAやグランドスタッフ、ホテルマンや仲居さん、飲食業やアパレルの店員さんなど、コロナの影響で失業した接客のプロも多いのではないでしょうか?
一流の接客をされていた方は特に、このハローワークの現状を見たらどう思うのでしょう?
私は接客業ではなかったけれどとても不快に思っているし、↓のような対応策まで考えてしまいましたよ。
もし私がハローワーク職員だったら・・・
1.雇用保険受給資格者証の顔写真を見る
・男性か女性か
・20~30代か40代以上か
・眉や目元は濃い系かさっぱり系か
はっきりと覚えなくても印象は掴んでおく
2.控室では苗字を1回呼ぶ
・「鈴木さん」「佐藤さん」なら3人位顔を上げて反応するかも
・珍しい苗字なら反応する人数もより少ないし
3.苗字の1コールに反応した人の中で、写真の印象に近い人の元へ行き、そこで初めてフルネームを呼ぶ。(ここで約1M以内には近づけるので、1M以内の人に呼び掛ける声の大きさ・トーンで。)
・もし同じ苗字で顔もそっくりさんならそれはそれでご縁があるのね
・もし一人目に近づいて名前が違うなら次へ行けば良し
これで少しでもフルネームを晒すことは解消されると思うんだけど。そして、上長に提案するね「名前を呼ぶ時は皆でこういう風にしませんか?」と。
・・・と、ここまで書いて、番号札システムの初回失業申請手続きのことを思い出す。
番号を呼ばれた人は、職員にこう聞かれるのです。
「お名前をフルネームでおっしゃってください」と。
その職員は、名前を聞き、写真と本人の顔を見比べ確認。
「ご本人で間違いありませんか?」と書類の写真と名前を本人に見せて最終確認。
つまり、苗字だけ呼んで該当者が1名しか居なさそうな時は、このシステムを使えば良いのでは?
フルネームで呼んでも対面した時に写真と名前を改めて照合するのだから。
まぁ、職員さんからしてみたら「忙しいからそんな手間かけられない」とか思うのでしょうか。
でもね、「やまださ~ん・・・やまだたろうさ~ん」って、1回目は苗字だけでも十分だと思うのですよ。1回で反応が無ければ3秒後の2回目にフルネームで呼べば良し。その後対面でしっかりと本人確認するんだから。
そして、何より、「声の大きさやトーン」はその場所に適しているか?ですよ。
名誉ある賞を受賞した会場ならともかく、ハローワークの失業認定の場所ですからね。
失業者の心情、わからないかな~?
どんな場所でも、まるでコーラスサークルで唄うような、高らかで伸びやかに大きく明るく周囲に響き渡る声で名前を呼ぶ必要があるのでしょうか?
ボソボソと小さい声で聞き取りにくいのは困りますが、目の前に居る人、2M先に居る人、5M先に居る人への声の出し方って違いますからね。テーマパークと病院では声のトーンは違いますからね。
社会人なのでその辺りの環境や対象者の心情は気にしてほしいものです。
とはいえ、その人の立場にならないとわからないこともあるわけで、私も仕事をする過程でそんな風に気配りが出来ていないこともたくさんあったのかもしれません。
学びました。ありがとう。
失業者のフルネームを大勢の前で呼ぶメリット
夫:50歳。コロナ禍でも業績好調の中小企業の営業部長。
妻:47歳。アパレルショップ勤務だったが、ショップ閉店により失業中。
――ある日の会話――
―食後にポツリと―
妻「ごんのすけざかって珍しい苗字だよね」
夫「何?急に(笑)」
夫「俺の高校の同級生にいるよ。ごんのすけざかりゅうざぶろう。3年前の同窓会で結構話したんだよな~、同じ市内に住んでたって偶然も凄いよな。あ、同窓会のこの話したよね」
―夫はスマホのカメラロールを探し、3年前の同窓会写真を妻に見せる―
夫「優しくて真面目なところ、全く変わってなかったな~。顔つきも相変わらず穏やかだし。それにしても名前と顔のギャップ大きいよな(笑)」
妻「!(写真を見て)」
夫「HTB旅行社で総務の仕事してるらしい・・・」
夫「あれ?この前HTB旅行社が希望退職募集するってニュースあったよな?・・・・“ごん”どうしてるかな」
妻「実は・・・」
―妻は今日ハローワークでの出来事を話した―
夫「そうか・・・」
夫「あ!うちの会社、総務部長のポジション探してるんだった。この人さ、コロナで価値観変わったらしくて、定年まで5年あるけど一家で田舎に移住したいから退職するって・・・。明日人事に求人の状況聞いてみて、それとなく“ごん”に連絡入れてみるか・・・」
―完―
こんなご縁が生まれるなら、大勢の前でフルネームで呼ぶことにも意味があるような気がします。でも一握りどころか奇跡ですよね。
思わずこんな妄想をしてしまう位、フルネームで呼ぶことの意義を探しているワタシ。
「ハローワーク フルネーム」で検索したら
「ハローワーク フルネーム」でGoogle検索したら上位には2010年の情報が2つあっただけでした。しかも結論ではなく、現状確認と改善希望だけ。Twitterで検索しても不快に思っているのを呟いているのはこの1年で数名だけ。
2020~2021年3月のコロナ解雇は約10万人。コロナ関連では無い失業者もいるでしょう。失業者全員がハローワークに行かなかったとしても、失業認定手続きをする人はそれなりの割合いますよね?
違和感がある人いないのかしら?
・管轄によっては番号札システムになっているからクレームが無いのか。
・失業者であることを知られたくないから呟かないのか。
・再就職が決まったからスルーしているのか。
・不快に思う人がいないのか。
私はかなり違和感があるし、デリカシーが無さすぎると思うし、個人情報云々が言われている令和3年のハローワークにおいて適切ではないと思います。
冒頭に書いた総合受付職員の言葉
「決まりなので出来ません。同姓の方もいるのでフルネームで呼ぶ必要があります」
う~ん、やっぱり違うな!
フルネームで呼ぶことが必要なのではなく、本人であることをフルネームで確認することが必要なだけなのだから。
もし、私の住む市区町村の管轄だけがフルネーム呼び出し制ならば、それはそれでおかしな話。即番号札システムにしてほしいものです。
なお、この件は厚生労働省にお申し出をする予定です。
私と同じように、不快な思いをする人が一人でも少なくなりますように。
※ごんのすけざかりゅうざぶろうさん、やまだたろうさん、もしいらっしゃったらお名前拝借してごめんなさい。